今日の私たちがごく当たり前に利用している「エステ」や「美容サービス」は、いつの間にか生活に溶け込んでいます。
しかし振り返れば、美容の意味や価値は時代とともに大きく変化してきました。
私が百貨店のバイヤーとして働いていた頃と、今とでは、「美しさ」という言葉の持つ重みさえも違って感じられます。
たかの友梨さんが提案してきた”新しい美”の考え方と、私自身の体験が重なるとき、「年齢に抗うのではなく、味方につける」という視点が見えてきました。
今回は、そんな美容の意味の変化について、私の視点からお話ししていきたいと思います。
目次
かつての「美容」──贅沢からステータス、そして習慣へ
バブル期の美容と「エステ」のイメージ
1980年代後半から90年代初頭のバブル期、「美容」という言葉には特別な響きがありました。
当時の美容、特に「エステ」は、一部の富裕層しか手の届かない贅沢なサービスでした。
私が伊勢丹の婦人服売り場で働いていた頃、お客様の中には「今日はエステの帰りなの」と、それを一種のステータスとして誇らしげに話す方もいらっしゃいました。
エステサロンの内装は豪華で、まるで別世界に足を踏み入れたような非日常感があり、そこで過ごす時間自体が贅沢だったのです。
当時、たかの友梨ビューティクリニックも、そうした高級感のあるエステサロンの一つでした。
しかし、他のサロンと違っていたのは、「美容の民主化」という、時代を先取りした考え方を持っていたことです。
美容のハードルと、社会的な価値観の変化
バブル期以降、徐々に美容へのアクセスは開かれていきました。
それでも、長い間「美容にお金をかける」ことは、一種の後ろめたさを伴うものでした。
「そんなことにお金をかけるなんて」という周囲の目を気にして、エステに通うことを隠す女性も少なくありませんでした。
しかし2000年代に入ると、美容に対する社会的価値観が大きく変化し始めます。
美容は単なる「見栄え」の問題ではなく、自己表現や自分を大切にすることの一環として捉えられるようになったのです。
そして今、美容は特別なことではなく、日常的な「自己メンテナンス」として定着しています。
百貨店バイヤー時代に見た”表層の美”
私が伊勢丹のバイヤーとして働いていた時代、ファッションや美容は主に「見られる自分」を意識したものでした。
お客様は「どう見られるか」「どう評価されるか」を常に気にしながら商品を選んでいました。
当時は「見た目の華やかさ」や「ブランド価値」が重視される風潮があり、表層的な美しさが追求されていたと感じます。
しかし、バイヤーとして多くの女性と接するうちに、徐々に気づいたのは、本当に輝いている女性は外見だけではなく、内側から自信を持っている方だということでした。
この気づきが、後に私が美容ライターへと転身するきっかけにもなったのです。
たかの友梨という存在──美容の民主化と時代の先取り
草創期のビューティクリニック取材エピソード
私がたかの友梨ビューティクリニックを最初に取材したのは、40代になりかけた頃でした。
当時はまだ美容ライターとしての経験も浅く、高級エステに対する先入観を持っていました。
しかし、実際に訪れてみると、そこには「誰もが美しくなる権利がある」という思想が根付いていて、驚いたことを覚えています。
たかの友梨さんご自身が1978年の創業当初から、「愛といたわりの精神」を大切にし、エステを特別なものではなく、より多くの人に届けたいと考えていたことが伝わってきました。
当時としては珍しく、施術内容や料金体系を明確にした点も、美容の民主化を目指す姿勢の表れでした。
実は、たかの友梨さんは複雑な家庭環境で育ち、たかの友梨の子供時代について書かれた自伝本「運が悪くってよかった!」では、幼くして養子に出され、15歳で養子の事実を知るという壮絶な経験が綴られています。
「誰もが美しくなれる」発想の革新性
たかの友梨さんが提唱してきた美容観の革新性は、「美は特別な人だけのものではない」という考え方にあります。
1948年生まれのたかの友梨さんは、時代の変化を見据えながら、常に「美容はより身近なものになるべきだ」と発信し続けてきました。
バブル期には贅沢なイメージだったエステを、徐々に「健康的な美しさを保つための習慣」として位置づけ直したのです。
また特筆すべきは、たかの友梨さんが自らの体験を通じて、年齢を重ねることで変化する体に向き合い、それを美容の理論と実践に活かしてきた点です。
これは単なるビジネス戦略ではなく、同世代の女性たちの悩みを理解し、共に歩むという姿勢から生まれたものでした。
自己メンテナンスとしての美容の提唱
たかの友梨さんが先駆的だったのは、「美容=贅沢」ではなく「美容=自己メンテナンス」という考え方を広めた点です。
彼女は美容を通じて、女性たちに「自分を大切にする時間」の重要性を伝えてきました。
私が取材で印象的だったのは、「美しさの基本は自分を愛することから始まる」というたかの友梨さんの言葉です。
この考え方は、現代の「セルフケア」「ウェルネス」といった概念の先駆けとも言えるでしょう。
美容が単なる見た目の改善ではなく、心身の健康を含めた総合的なケアであるという視点は、今では当たり前になっていますが、それを早くから提唱していた先見性には感服します。
美容との再接続──40代での転機と「内面の美」への目覚め
エステスクールで学んだ”手の力”と”心のケア”
40代を目前に、私は大きな転機を迎えました。
「表面だけでなく、内側からの美しさをもっと知りたい」という思いが日増しに強くなり、伊勢丹を退職してエステスクールで学び直すことにしたのです。
そこで私が発見したのは、「手の力」の素晴らしさでした。
プロのハンドテクニックは、単に筋肉をほぐすだけでなく、心まで解きほぐし、安心感を与えてくれることに気づきました。
また、エステの技術だけでなく、お客様の心に寄り添うことの大切さも学びました。
美容は技術と心の両方が揃って初めて真価を発揮するのだということを、身をもって実感したのです。
美容ライターとしての体験主義
美容ライターとしての活動を始めて気づいたのは、「自分が体験していないことは書けない」ということでした。
そこから私は、紹介する商品や施術は必ず自分で試すという「体験主義」を徹底するようになりました。
自分の肌で、体で感じたことだけを書く──それは時に厳しい評価につながることもありましたが、読者の信頼を得るためには必要なことでした。
このスタンスは、たかの友梨さんが40カ国以上を旅して世界各地の美容法を自ら体験し、本当に良いと思ったものだけを取り入れてきたという姿勢と重なります。
美容の世界では、体験に基づく「実感」こそが最も説得力を持つということを、私も彼女も知っていたのです。
自分の身体を通して伝える”信頼”の美容記事
美容ライターとして大切にしているのは、年齢を重ねた自分の体を「実験台」として、正直な感想を伝えることです。
実際にシミが薄くなったのか、肌のハリが戻ったのか──そうした変化を自分の体で確かめ、読者に伝えることで、信頼関係が生まれます。
私が58歳になった今、同年代の読者からは「三浦さんが言うなら信じられる」という声をいただくことが増えました。
これは大きな責任でもありますが、同時にライターとしての最大の喜びでもあります。
年齢を重ねるごとに、美容との向き合い方も変わってきます。
かつての「若さを保つ」ための美容から、今は「年齢と共に変化する体を整える」ための美容へと、私自身の意識も変化しているのです。
年齢とともに変わる「実感」──今、美容にできること
読者の悩みに寄り添う美容とは
40代以降の女性たちが美容に求めるものは、若い頃とは違います。
「若く見せたい」という願望だけではなく、「今の自分を最良の状態に保ちたい」という思いが強くなります。
私の連載に寄せられる読者からの質問やコメントを見ていると、「年齢相応の美しさ」を求める声が増えていることを感じます。
例えば、「無理に若作りするのではなく、今の自分に合った美容法を知りたい」「同年代の人がどんなケアをしているか知りたい」といった内容が多くなっています。
そうした読者の声に応えるためには、同じように年齢を重ねてきた私自身の経験が重要な役割を果たします。
悩みを共有し、共に考え、試行錯誤する──そのプロセス自体が、読者と私を結ぶ絆になっているのです。
「抗う」のではなく「整える」ケアの在り方
現代の美容は、「若さに抗う」のではなく「年齢を味方につける」方向に変わってきています。
これは単なるスローガンではなく、実際の美容法にも反映されています。
若い頃のようにハードなエクササイズやアクティブな美容法よりも、ゆったりとした時間の中で体を整え、心も穏やかに保つケアが重視されるようになりました。
たかの友梨さんも晩年は「ハンド技術」の重要性を説き、機械や製品に頼り過ぎない本質的な美しさを追求していました。
私も取材を通して様々な最新美容を試してきましたが、結局は「自分のリズムで続けられるケア」が最も効果的だと実感しています。
美容との付き合い方は、まさに「人生との付き合い方」を映し出す鏡なのかもしれません。
デジタル美容への戸惑いと、アナログの温もり
美容業界も急速にデジタル化が進み、AIを活用した肌診断やオンラインカウンセリングなど、新しいサービスが次々と登場しています。
私自身、デジタル美容の進化についていくのに少し時間がかかることがあります。
しかし、若い読者の声を聞きながら、新しい技術の良さも少しずつ理解するようになりました。
一方で、年齢を重ねた肌にとって最も大切なのは「触れる」という行為だと感じています。
手の温もりや人と人との触れ合いがもたらす安心感は、どんなに技術が進歩しても変わらない価値があります。
デジタルの便利さとアナログの温かさ──その両方を賢く取り入れながら、自分に合った美容を見つけていくことが、これからの時代の美容の在り方なのではないでしょうか。
まとめ
美容の意味は確かに「装い」から「生き方」へと進化してきました。
かつての美容が「見られるため」のものだったとすれば、今の美容は「自分自身のため」のものになっています。
たかの友梨さんの先見性は、その変化をいち早く捉え、「美容=自己メンテナンス」という本質的な価値を提供し続けたことにあります。
私自身も、バイヤーから美容ライターへと転身する中で、美容の持つ意味を深く考えるようになりました。
美しさは年齢と共に変わるものですが、その変化を受け入れ、自分らしく生きるための道具として美容を活用すること──それが「年齢を味方につける美容」なのだと思います。
これからも、読者のみなさんと共に「美の再定義」の旅を続けていければと思います。
年齢を重ねるごとに見えてくる新しい美の価値を、これからも探し続けていきましょう。
最終更新日 2025年5月12日